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東京高等裁判所 昭和55年(ラ)440号 決定 1980年8月29日

抗告人 田口アキ子

相手方 金田とき子

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人の抗告の趣旨及び理由は、別紙抗告状記載のとおりである。

そこで考えるに、本件記録によれば抗告人主張の不動産鑑定費用は、原審において被相続人木本春吉の遺産を分割するにつき遺産の一部である不動産の価額を確定するため、抗告人の申立に基づきなされた不動産鑑定の鑑定料として抗告人から裁判所に予納され、その後鑑定人に支払われた費用であつて、いわゆる手続費用に該当するものであるところ、抗告人の本件抗告は、その主張によれば、要するに原審判が右鑑定費用を相手方に負担させなかつたことについて不服があるとてしその半額を相手方に負担させる裁判を求める趣旨のものにほかならないから、原審の費用の裁判に対してのみ不服申立をするものと解される。しかしながら、家事審判手続における費用の裁判に対しては独立して不服を申立てることが許されないことは、家事審判法七条において準用する非訟事件手続法三〇条但書の定めるところであるから、本件抗告は不適法たるを免れない。

なお、原審が本件遺産分割の審判をするに際し費用の裁判をしなかつたことは記録上明らかであるが、一般に家事審判手続における費用は、特別の事情等があつて特に負担者を定めた場合を除くのほかは、事件の申立人において負担すべきものであり、かつ申立人に費用を負担させるについては何らの裁判も要しないと解されるから(家事審判法七条において準用する非訟事件手続法二六条ないし二八条参照)、原審が遺産分割の審判をするに際し費用の負担について何らの裁判もしなかつたことは法の本則に従つて右費用を抗告人に負担させる趣旨に出たものであることは明らかである。したがつて、原審が抗告人主張の費用の負担について何らの裁判をしなかつたことをもつて費用の負担に関する判断を遺漏しているとする抗告人の主張は理由がない。

よつて、抗告人の本件抗告はこれを却下すべきものとし、抗告費用の負担につき家事審判法七条、非訟事件手続法二五条、民事訴訟法四一四条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 渡辺忠之 裁判官 鈴木重信 渡辺剛男)

抗告状

抗告の趣旨

原審判の第一項を次のとおり変更する。

一 遺産管理者山田一が保管する金員中

申立人は、金五一九万三、八五五円を、

相手方は、金一四九万二、五二一円取得する。

抗告の原因

一 原審判は抗告人が東京家庭裁判所の予納命令に基いて同裁判所に予納した不動産鑑定費用金二二万円に関し、被抗告人に負担させるべき部分についての判断を遺漏している。右金員のうち少くともその半額である金十一万円については被抗告人が負担すべきものであるから、原審判の額に金十一万円を増額し、被抗告人に対し同額を減額すべきが相当と思料する次第です。

二 よつて、本即時抗告に及びます。

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